とあるヒノアラシのブログ

たまに放置しますが忘れていません…。

小説 月と星が輝くとき

ポケモンラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の2次創作の小説となっております。

 

アドカレ、18日担当です。今回はだいぶ前に脳内に思い浮かんだ物語を、形にしてみました。正直、書いてい恥ずかしくなってきましたが、頑張りました。
今回の小説は、前回のアドカレの記事で語った「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のミアちゃんのお話に、ポケモン要素を絡めたものになっています。
虹ヶ咲のアニメ版のストーリーをもとにしつつ、オリジナルの要素もたくさん入れ込んでいます。そしてもちろんポケモンが何匹か登場します。自分の解釈を入れつつ、ある程度自由に書いています。(なお、私のネーミングセンスが絶望的でポケモンのニックネームが悲惨なことになっています。気にしないでください…。)

 

それでは、ミアちゃんが小さいころに出会った、かわいいイーブイのお話、始めます。

 

 

 

今日も、わたしのご主人さまは夜遅くまで作曲作業をしてる。…もう、あと少しで明るくなるっていうのに、今日も寝てないみたい。あんまり、無理しないでほしいのに。

 

いろいろ言いたいことがあるのに、ポケモンであるわたしの言うことは、ニンゲンであるご主人さまにはちゃんとはとどかない…。

 

 

わたしの名前は"cocoa"。えっと…どうやらしゅぞく?っていうのはeevee…イーブイっていうらしい。とりあえずご主人さまには"cocoa"って呼ばれてる。なんでも、ご主人さまの好きなのみものの色と、わたしの毛の色がにてるんだって。ひびきもかわいいしわたしはその名前がとっても気に入ってるんだ。

わたしのご主人さまは女の子。名前はミアちゃん…ミア・テイラーって名前なんだって。もちろんわたしはミアのことだいすき!!わたしがミアと出会ったのは…じつはわたしがかってにミアの家に入っちゃったからなんだけど。

まぁ、わたしが出会ったころのミアと、今のミアは全然雰囲気がちがうんだけどね。

 

 

わたしがある日、いつものように気ままにあちこちとことこさんぽしてたら、どこかからかわいくて、きれいな声で歌っているのがきこえてきたの。わたしは気になって、その歌声がきこえてくる方向をめざして走っていったの。見ると、かわいい女の子が歌ってた。それがミアだった。

でも、いつの間にか家のなかに入っちゃったみたいで、あやうく家の他の人にバトルでたおされそうになっちゃった。どうやらミアのお姉さんだったみたい。でも、わたしが熱心に歌をきいていたのを見ていたからか、ミアがかばってくれた。そして、お姉さんにお願いしてくれたの、わたしを自分のポケモンにしてもいいか、って。わたしもとくにその時他の人のポケモンになっていたわけではなかったし、わたしもミアと一緒にくらしたかったから、ミアがわたしの方を見た後そんなことを言い出したときにはおどろいちゃった。それにとてもうれしかった。

 

そういうことで一応ミアのモンスターボールに入ったわたしだけど、いつも基本ボールの外にいて、ミアと一緒にわたしはすごした。ミアは歌うのがだいすきみたいで、いつも家で歌ってた。わたしは毎日それをうっとりときいていた。時にはおどっちゃうこともあった。そんなわたしを見て、ミアも本当に楽しそうにしてた。前にわたしもミアのまねをしてがんばって歌ってみたことがあるんだけど、「cocoaはへたくそだなぁ!」なんて言って笑ってた。へたくそだなんて失礼だなあもう!!イーブイだからうまく歌えないだけだもん。

ミアには他にもポケモンがいた。家族からゆずりうけたポケモンらしいんだけど、ミアみたいにとっても歌うのが上手なチルットの"candy"、ちょっといたずら好きのゾロアの"pickles"、そして目立ちたがりやのアシマリの"lettuce"の3匹がすでにいたの。3匹とも、最初はわたしをみてとまどっていたけれど、ミアが「なかよくしてね」と言ってくれたおかげで、すぐにわたしのことを受け入れてくれて、とってもなかよしになった。

 

ミアにはお父さんとお母さん、そして最初に言ったお姉さんがいたけれど、みんないそがしそうだった。なんでも、みんなニンゲンの世界では有名な人なんだって。イーブイのわたしにはよくわからないけれど、ミアだけじゃなく家族みんな歌がうまくて、ミアもよく「私も将来有名な歌手になるんだ!」なんて言ってた。わたしはただミアの歌が好きなだけだったけど、それをもっと多くのひとやポケモンがきいてくれるならとてもうれしいと思った。だってイーブイのわたしがこんなに好きになれちゃう歌声なんだもの。もっとみんなにもきいてほしい!!あ、でもそれでミアが誰かに取られちゃったらちょっといやだな…なんて思うこともある。でも、こんなに毎日一緒にすごしてるんだもの。ミアがわたしとはなれようとすることなんて、ないよね…!!

 

 

ある日、ミアがわたしにとてもこうふんして言ったんだ。
「今度、みんなの前で歌うことになったんだ!!やっとみんなにボクの歌をきいてもらえるんだ!!!」
それをきいてわたしもうれしかった。たくさんの人にミアの歌をきいてもらえるなんて、とってもステキなことだから。今までは家の中や、庭のところで家族やわたしたちポケモンの前で歌っているだけだったから、それがもっと多くの人にきいてもらえることになるなんて、本当にうれしかった。一体どれだけの人が来るのか、わたしにはわからなかったけど…。

そして、その日のためにミアは練習をはじめた。そんなに練習しなくたって、いつだってミアの歌はとってもステキなんだけどなぁ、と思いながら、でもいっしょうけんめい練習しているミアもステキだったから、わたしは近くでいつもそれを見守った。すっごくミアは意気込んでた。みんなの前でいつも以上にステキな歌をミアが歌えるなら、それは最高だった。時々うまくいかないことがあると、わたしはミアのことを元気づけた。イーブイだからうまく伝えられなかったかもしれないけど、明るくはげますわたしの顔を見て、すぐにミアは元気を出してくれた。

 

 

でもこの時は、ミアの言っていた「みんなの前で歌うこと」の意味を、わたしはよくわかっていなかったんだ。

 

 

いよいよミアがたくさんの人の前で歌う日がやってきた。本当にたくさんの人が来ていたみたいだった。わたしはずっとミアのそばにいたかったけれど、大事なイベントなので部屋で待っているように言われた。どうにかしてそばにいたいとうったえたけどだめだった。「ボクにとって大事な日なんだ、お願いだからここで待っててほしい…ね?すぐにもどってくるから!」とミアにたのまれたら、待っているしかない。うずうずする身体をなんとかおさえて、わたしは部屋で待つことにした。

 

…落ち着かない。というかよく考えたら基本的にずっとミアのそばにいたから、ここまで長い時間ミアとはなれるなんて今までなかった気がする。学校に行っている間はボールの中にいたけど、それでもそばにいることには変わりはなかった。わたしはそわそわしてずっとミアの部屋をわたしは動きまわっていた。いくら身体をうごかしても、「ぶい!!!」と叫んでも落ち着かない。一緒にいたチルットのcandyや、もうこの時にはオシャマリに進化していたlettuceはちょっとあきれてた。でも、本当に落ち着かないんだもん!!はやくミアに会いたくて…みんなに歌をとどけたミアの笑顔を見たくて……。

 

 

一体どれだけの時間がたったかわからなかったけれど、ドアを開ける音がして、わたしだけでなくみんなとび上がって、すぐにドアのところへかけよった。

 

ドアの向こうにはミアがいた。けれど、わたしが、わたしたちが思っていたミアじゃなくて。

そこに立っていたミアは、今まで見たことないような顔をしていた。青ざめて、ふるえていて…まるで何かおそろしいものにおそわれたかのような、そんな表情だった。わたしは、いや、わたしたちは、いったい何があったのか、どう反応していいかわからなかった。

 

ミアはふらふらしながら部屋のすみへ歩いていき、うずくまった。そして、声をころして泣きはじめた。わたしたちは皆そばへあつまったけれど、それ以上、何をすることもできなかった。
ミアは声をころして泣きはじめた。元気よく、明るい顔で、「行ってくるね!」なんて言っていたのに、いったい、なにがどうしてこうなったのか、全くわたしたちにはわからなかった。ただ、ミアのそばにいるしかなかった。

 

しばらくして、ミアがぽつりとつぶやいた。
「ねえ、ボク…歌えなくなっちゃった。」

 

わたしはびっくりした。いや、たぶんわたしだけじゃない、その場にいたみんながおどろいたとおもう。少し前まで、本当に楽しそうにしていたのに、あんなにはりきっていたのに、この間になにがおこったのか…。

 

「あのね…、歌えなかったんだ……。
 ボクには…無理だ……。

 

 ミア・テイラーとして歌うことなんて、ボクには…できないよ……。」

 

わたしには、その言葉の意味がよくわからなかった。毎日あんなに楽しく歌っていたミアが、どうして歌えなかったのか、どうしてできないなんて突然言ったのか、全くわからなくてとまどってしまった。でも、ほかのみんなは何かに気がついたみたいだった。

わたしはもともとこの家にいたわけじゃないからちゃんとはわからないけれど、どうやらこの家では「歌を上手に歌えること」は当たり前みたいな感じで、ミアのお父さんも、お母さんも、お姉さんも、それを仕事にしているみたいだった。家にいるポケモン達も一緒に練習ができるよう訓練されているみたいで、今一緒にいるチルットのcandyや、オシャマリのlettuceは上手に歌を歌えるんだけど、しっかり訓練を受けてるからなんだって。ゾロアのpicklesは歌は歌えないけど、音楽に合わせてうまく踊ることができるみたい。そう、みんな、音楽に合わせて何かできるように、家の人たちも、ポケモンも、日々練習しているし、それに自信を持ってるみたいだった。

このことはさりげなくcandyやlettuceからもきいたけど、でもわたしはなんだかよくわからなかった。ニンゲンの世界はむずかしいし、ニンゲンの世界と深くかかわっているポケモンたちが考えていることもむずかしい。

 

でも、今、ミアがこうして泣いているのは、歌えなくなっちゃったのは、このニンゲンの世界のなにかが理由だってことはわたしでもわかった。
…なんだか、納得はできなかったけれど。

 

 

 

それ以来というもの、ミアの顔からは笑顔が少なくなったし、ミアが歌うことはほとんど…全くなくなってしまった。必死になって勉強して、いつの間にかミアは音楽を作るほう…作曲家になってた。手持ちポケモンには2匹のストリンダー、"potato"と"tomato”メロディを口ずさむことはあるけれど、それを歌うのはすでに進化してチルタリスになったcandyか、アシレーヌのlettuce。そして、いずれは他の人の元へその歌はとどけられる…。わたしにはそれがちょっとさみしかった。

さらに、ミアはとっても勉強して、学校の学年もどんどん上のほうに上がっていって、いつのまにか大学ってところに通ってた。大学にいる時はわたしもボールの中にいるけれど、まわりを見ると他の人はほとんどミアより年が上だった。そのせいかあんまりミアは他の人と話していないみたいで、話しかけられることもほとんどなかった。ミアがかなり有名になっていたのもあったかもしれない。このころには、ニンゲンの世界の中で、すごい作曲家としてミアは知られていたみたい。いろんな人から、仕事の話は来ていたみたいで、大学の勉強もしながら家でずっと作曲してた。たまに息ぬきでゲームしたり、野球観戦したりしてたけど…。

 

大学に入学する前のある日、ミアはわたしの前にいくつかの石を置いて、こう言ったの。
「他のポケモンたちも進化したし、cocoaもそろそろ進化してもらおうと思って。…ほら、大学にも行くし、ボクもそろそろ進化前のポケモンから卒業したいな…って。もう、子どもじゃないしさ。」
突然のことでわたしはおどろいた。たしかに、もうcandyも、lettuceも、そしてpicklesもゾロアークに進化していた。ストリンダーの2匹はミアが進化前のエレズンの時に知り合いから引き取って、育ててすぐに進化させていた。進化していないのはわたしだけだった。

でも、わたしは特にいまは進化したい気分じゃなかった。いますぐ進化しろだなんて言われても…という気持ちだった。わたしはどうやらいろんなポケモンに進化できるらしくて、どんなポケモンに進化できるのか、一応ミアが見せてくれた。目の前に置いている石を指しながら。
みずのいしシャワーズかみなりのいしでサンダース、ほのおのいしでブースター、リーフのいしリーフィア、こおりのいしでグレイシア。でも、どれもなんだかしっくりこなかった。ほかにもすがたがあったけれど、それらは今すぐに進化するのはできないみたい。でも、とにかく今すぐ進化したいとは思えなかった。

「どうする…?ボクはどれでもいいんだけど…cocoaがなりたいすがたならなんでもいいよ。」

そう言ってくれたのはありがたいけれど、でも、ミアが心の底から進化してほしいと思っているようには思えなかった。それに、わたしがとにかく今進化するのはいやだった。だから、わたしはどの石も放って、「ぶい!!」とそっぽを向いた。

「なんだよ!ボクの言うことを聞かないのかよ。」

ミアにおこられたけど、でもしたくないものはしたくない。だからそっぽを向いたままでいた。しばらくお互いだまっていたけれど、

「…勝手にしろよ。」

といって置いていた石を片づけた。ミアの言うことにしたがわないのはちょっと気が引けたけど、でもここでそのままミアの言うことを受けいれることは、なんとなくしたくなかった。

 

それからしばらくは、なんとなくミアと一緒にいるのがちょっと気まずくなったけど、それでもミアは一応私をボールに入れて、一緒にいてくれた。…あまり私をボールの外に出してくれることはなかったけれど。でも食事をするときは、ボールから出してくれた。たいていミアは一人でご飯を食べていたから、その時はわたしだけじゃなくて一緒にいるポケモンたちを出して、一緒に食事をした。わたしはまだ身体が小さかったから、時にはミアのひざの上に乗ったりした。ミアはわたしの顔を見て頭をなでてくれていたけれど、でもその表情はどこかさびしげで、何かを言いたそうな雰囲気だった。ミアの気持ちがすぐにわかればいいのに、いや、気持ちがわかっても、わたしが言いたいことが伝えられなかったら意味がなかった。なんでポケモンとニンゲンの間で、うまく言葉を伝えられないのかな。わたしはずっともどかしい気持ちを抱えながら、それでもミアのそばにいた。

 

 

そんなある日、ミアが帰宅すると、家には見慣れない人がいた。ちょうどわたしもボールから出てミアの横を一緒に歩いていたから、びっくりした。

「あら、あなたがミア・テイラー?」

ミアよりもちょっと歳が上っぽい女の人だった。明るいピンク色のきれいな髪に、それにも負けない明るい水色のひとみ。着ているものはミアの家族にも負けない、とても豪華なもので、そしてなにより、自信に満ちあふれている…そんな雰囲気の人だった。

 

「…そうですけど、誰ですか?」

「きゃあ!会いたかったのよ、ミア~~~!!!」

「えっ…!?」

 

そしていきなりその人は名乗りもせずにミアに抱きついた。ミアは固まっていた。わたしも一体なにがなんだか分からず、立ちつくしていた。こんな人どこかで会ったっけ…?記憶の中を探っていたが、わたしの頭の中にはこの人の記憶は無かったし、どうやらそれはミアもそのようだった。

 

「ちょ、ちょっと!!だ、誰!?警察呼ぶぞ!!!」

「あ、あらごめんなさい!自己紹介がまだだったわ。私はランジュ。鐘 嵐珠(ショウ・ランジュ)よ。」

「…で、ボクに何の用?勝手に家に入ってきて…」

「私の歌う曲をミアに作ってほしいのよ!!スクールアイドル・鐘 嵐珠の曲を!!!」

「…はあ???」

 

いきなり直接家に来て曲を作ってくれだなんてそんなことする人初めて見たし、それだけじゃなくてすくーるあいどる?って、いままで聞いたことがない。ミアもさらにこんらんしてきたようで、何をどう返したらいいかわからない、って顔をしてた。

 

「と、とにかく、そんな訳のわからないもの…」

「いいえ!訳がわからなくないわ!!スクールアイドルは素晴らしいのよ!!!」

 

ミアは断ろうとしたが、ランジュさんがそれをさえぎって、いろいろと勝手に話し出した。ミアは話半分という感じだったけど、そのランジュって人は気にせずすごい勢いでいろいろ話をしていて、動画まで見せていた。すくーるあいどるふぇすてぃばる?っていうイベントの動画らしくて、ミアよりちょっと歳の上っぽい、ランジュさんと同じくらいであろう女の子たちが歌っておどってた。すごくみんな楽しそうにしていた。

ランジュさんがミアに話を始めてから、いったいどれだけの時間が経っただろうか、ミアはもううんざり、っていう感じになっていた。ランジュさんはそれでも話し始めたときとテンションは変わらず、そしてこう言った。

「私もこの子たちみたいに、スクールアイドルになろうと思ってるの。この子たちのいる、虹ヶ咲学園に通ってね。それで、私は何もかも完璧にやりたい、だから、あなたに私の歌を作ってほしいの!!」

「申し訳ないけど、ボクそういうのは興味が…」

「だめよ!!私の歌を作るのにふさわしいのはあなた…ミア・テイラーしかいないの!!!他の色々な作曲家の曲も聞いたけど、私はあなたが一番だと思ったわ。だから、引き受けて頂戴、いや、引き受けなさい!!」

ランジュさんの態度はすごかった。今までミアにこんな上から目線で物事をたのむ人なんていなかった。とんでもない人だ。

「そこまで言うんなら、今までボクが作った曲の一つでもいいから、ここで歌ってみてよ。歌いこなせるんなら考えてもいい。でも、ボクがこれでダメだと思ったら絶対に引き受けないから。警察呼んで帰ってもらうよ。」

「いいわ!!そうこなくっちゃ!!!」

そしてランジュさんは歌いだした。ミアの作った曲を。とにかくすごかった。ミアもおどろいていた。どうせたいしたことないだろうと思っていたんだと思う。わたしも正直どうなんだろう?とは思っていたから、ついランジュさんの歌うすがたにみとれてしまっていた。

 

…でも、昔のミアの歌う歌ほどじゃないとは思ったけど。これはないしょね?

 

「どう?ミア。私の歌は?」

「…仕方ない。その代わりちゃんと報酬はあるんだろうね?」

「もちろんよ、決まりね。じゃあ、来月カントー地方へ一緒に行くから。あなたはまだ14歳でしょ?一緒に虹ヶ咲学園に留学するってことで手続きしておくわ。音楽科でいいかしら?」

「はあ?来月!?すぐじゃないか!!」

「当たり前じゃない。早くスクールアイドルやりたいんですもの。あ、ミアは大学生だから、3年生として入れるようにしておくわ。その辺のことは全部私がやっておくから。必要なものは後で送るわ。それじゃあよろしく、ミア。」

「ちょ、ちょっと待って…。」

ミアが言い終わらないうちに、ランジュさんは出ていった。

 

「一体なんだったんだ…?」

あらしが去ったかのように、静かになった部屋で、ミアはわたしに困惑した顔を向けた。わたしも、なにがなんだかわからなかった。

 

その後、ミアの元にランジュさんからメールが届いたようで、イッシュ地方を出発する日、必要なもの、準備することなど色々書かれていたみたいだった。あれは本当にあった出来事だったようで、ランジュさんは本気のようだった。

「…あの人の相手をするのは面倒だけど、いい機会かもね。」

そう、ミアはつぶやいた。何が「いい機会」なのか、わたしにはよくわからなかった。

 

カントー地方へ向かう日が近づいてきていたある日、ミアはわたしをボールから出して、こう言った。

 

cocoa、キミは、ここに残ってもらおうと思ってるんだ。」

 

え……。突然のミアの言葉に、わたしは耳をうたがった。そんな、ミアがわたしを置いていくなんて、そんなこと…。

 

「おどろかせて、ごめん。でも、キミがいると……。とにかく、連れては、いけない。」

 

どうして…?わたしが一体なにをしたっていうんだろう?たしかに少し前に進化するのをいやがって、ミアのことを困らせた。でも、ただそれだけで、ミアがこんなこと言うだろうか?ずっと、一緒にいたわたしと、はなれるだなんて…。

その場にいたチルタリスのcandyや、アシレーヌのlettuceもおどろいていたみたいだった。でも、わたしにはわからない、なにかに2匹は気がついているみたいで、わたしのことをすこしあわれんでいるような、そんな顔もしていた。わたしがわかっていない、ミアのことってなに…?ますますわからなくなった。

 

とにかく、わたしはミアのそばからはなれたくなかった。でも、それをどうしたらはっきり伝えられる…?いや、考えても仕方ない。とりあえず今のわたしの気持ちを全力でぶつけてやるんだ…!!

 

「ぶい!!ぶぶい!!!」

 

わたしはさけんで、ミアに思いっきりたいあたりをした。イーブイのわたしだって、全力でたいあたりをすれば、それなりのいりょくにはなる。ミアはしりもちをついた。

「トレーナーのボクに何をするんだよ!!」

「ぶい!ぶーぶい!!!ぶい!!!!」

「わかってるよ!!はなれたくないってことくらい!!!でも…。」

 

ミアはしりもちをついたまま、だまりこんだ。「でも」の言葉の続きをわたしは待った。でも、なかなか続きは出てこなかった。ミアはなにを考えているのか、ずっと一緒にいるけどわたしにはわからない「何か」があった。

 

いや、薄々わたしも気がついていた。ミアが、わたしとはなれたいと思っていることがあること、そして、それと同時にはなれたくないと思ってもいることを。そしてそれは、あの「ミアが歌えなくなったこと」と関係があることを。ミアはもう「歌わない」と心に決めているみたいだった。でもわたしはミアの歌がもう一度ききたかった。そしてそう思っていることを、ミアも気がついているんだと思う。だからわたしとはなれたがっているんだ、と。

 

でも、わたしははなれたくなかった。そう、もう一度、ミアに歌ってほしかった。それに、ミアのことが心配だった。普段の生活のこともそうだけど、前よりも格段に笑顔の減ったミアが、不安でたまらなかった。そんなトレーナーの様子を見て、はなれたいと思うポケモンがいると思う?

 

わたしは、ミアに、きぜんとした足取りで近づいた。「ぜったいにはなれないから」と気持ちを込めて、ミアの目を見つめた。

 

「……わかったよ。連れていくよ。でも、余計なことはしないでくれよ。」

 

ミアは根負けしたようだった。

 

 

 

cocoa、行くぞ。小さいんだからはぐれるなよ。」

ミアは、わたしをボールから出してくれていた。ランジュさんが、わたしのことを見て、

「その子、かわいいんだからボールから出してあげればいいじゃない。」

なんてミアに言ったからだが、あとは今日は学校に行くと言ってもなんだか特別な日らしい。おーぷんすくーる?わたしにはよくわからなかったし、ミアもよくわかっていないようだったけれど、とにかく今日は自由に学校の中を見て回ってもいいみたいだった。ランジュさんは一緒に「スクールアイドル同好会」のところに行くか聞いてきたけど、ミアは断っていた。

ミアのそばからはなれないように気をつけつつも、初めて見るものだらけで目があちこちいろんな方へ向いてしまう。時々ミアに注意され、ついに抱きかかえられてしまった。

ミアは制服…この、虹ヶ咲学園という学校の制服を着ていた。制服を着ているミアは、なんだか可愛らしかった。…そんなこと言ったら怒られそうだけど。

ランジュさんが言っていた通り、この虹ヶ咲学園という高校の、音楽科の3年生の留学生として、ミアは通うことになっていた。短期の留学だからすぐにイッシュ地方に戻る予定だけど、それでも初めて違う地方に来たから、見慣れないものがいっぱいあった。その辺にいるポケモンも、人が連れているポケモンも、初めてみるようなポケモンがたくさんいた。

 

ミアは適当に一通り学校内を回ったあと、庭?にあったベンチに座って一休みしていた。

「はぁ…今さら高校なんて…。」

そうだ、ミアはもうすでに高校は卒業していた。だから学校の勉強なんて必要がない。仕事とはいえ、ランジュさんに付き合わないといけないということでわざわざ学校に通わないといけないミアがちょっとかわいそうだった。

「あと少ししたらまた戻らないといけないのか…面倒だな。」

どうやらランジュさんに呼ばれているらしい。スクールアイドル同好会というところの映像が流れるから一緒に見なさいと言われているんだとか。…色々ミアに命令するなんてすごい人だ。

 

ミアとベンチでのんびりしていると、近くの茂みがガサガサと揺れて、そこからポケモンが飛び出した。

「…ニンフィア?」

そこにいたのはニンフィアというポケモンだった。なんだかどこかで見たことあるような…?ニンフィアは、わたしに近づいてきた。

 

『キミたち、見かけない顔だね…?』

『今日初めてこの学校に来たの。わたしはcocoaって言うんだ。この子、ミアっていうんだけど、わたしのトレーナーなの。あなたは、だれかのポケモン…?』

『そうだよ。僕はフィア。僕のトレーナー…璃奈って言ってこの学校に通ってるんだけど、今忙しくてさ。庭で遊んでていい、って言うから散歩してたんだ。本当はポケモンだけで歩き回っちゃダメなんだろうけど、璃奈のポケモンだし、ってことでこの学校の生徒会長からも認められてるんだ。』

『ふうん…。』

生徒会長がなんなのかよくわからなかったけど、とにかく璃奈って子がすごいトレーナーなのかもしれないし、このフィアもすごいポケモンなのかもしれないと思った。

 

いつの間にか、ミアはフィアの頭をなでていた。

『璃奈の方がうまいけど、キミのトレーナーもなかなかいいなで方するね。気持ちいいや。』

『そりゃそうよ!ミアはすごいんだから!!』

ついそんなことを言ってしまう。ミアが他のポケモンのことをかまっていると、つい強い口調になってしまう。

『あはは、キミはミアのこと大好きなんだね。まぁ、僕も璃奈のこと大好きだけどさ!じゃあ、そろそろ行くね。』

そう言って、フィアは去っていった。フィアがぱっと走り去ってしまったので、ミアはちょっとさみしそうにしていた。…もう、わたしがいるのに。

 

 

あの後、ランジュさんのところへ向かったミアだったけど、ランジュさんがいきなりライブを始めると言い出してびっくりした。ミアはやれやれ、と言った様子で、もうランジュさんの突拍子もない行動に慣れているようだった。…カントー地方に来るまでの準備期間中も色々あったから。

思いがけないタイミングで、ミアがランジュさんのために作った曲の初披露になったわけだけど、その場にいたみんながランジュさんにくぎ付けになっていた。ミアは、手ごたえを感じているようだった。ミアが満足しているならそれでいい、そのはずなのに、わたしはちょっとさみしかった。

 

 

そうして、ランジュさんのスクールアイドル活動の手伝いをするミアの生活が始まった。ランジュさんは何故か同好会には入らず一人で活動すると言って、ライブのことや曲のことなど、全て一人で色々決めていた。ランジュさんが「次はこんな曲で」とミアに伝えて、それを受けてミアは曲を作ってランジュさんに送る。その曲に合わせてランジュさんは歌とダンスを練習して、ライブで披露する…そんな流れになっていた。

 

学校生活の方は、ミアはいつも面倒くさそうに学校に行って、やるべきことだけやってすぐに教室から出て、その辺をぶらつきながら曲作りをしたり、他の人の曲の動画を見たりしていた。特に今はスクールアイドルの曲を作る、ということで、このカントー地方だけでなくあらゆる場所で活動しているスクールアイドルの動画を見ていた。隣のジョウト地方や、ホウエン地方シンオウ地方にもいるみたい。イッシュでは殆ど聞かなかったから、まだどこの地方にもあるわけじゃなかったようだけど、意外と色んな地方でやってるものなんだと知っておどろいた。

動画を見ている時、たいていミアはだまっていたから、ミアが何を考えているのかあまりよくわからなかったけど、その顔は真剣で、そしてどこかさみしげだった。ミアと同じくらいの子や、もう少し上くらいの子たちが、とても楽しく歌って踊ってる。グループでも、ソロでも、とっても楽しそうだった。わたしはふと、ミアがスクールアイドルをやっている姿を想像してしまった。すごく素敵だろうな、とは思ったけれど、今のミアがそんなことするはずが無かった。とにかく今のミアは、ランジュさんのために曲を提供する作曲家だ。ミア自身が歌って踊るなんて、そもそもそんな余裕は無かった。

 

ミアとわたしが学校内でのんびりしたり動画を見たりしている時、初日に出会ったフィアがやってくることがあった。そしてある時、ついにフィアのトレーナーの璃奈さんと出会った。

「あの…フィアといつも遊んでくれてる人?」

璃奈さんのことはフィアから聞いてはいたけれど、思っていたよりも小さくて可愛い子だった。フィアの毛の色よりも濃いピンク色の髪で、綺麗な黄色の瞳でまっすぐわたしたちのことを見ていた。というか、フィアからわたしたちのこと聞いてるの!?この人、フィアの言ってることがわかるのかな…?とわたしはおどろいた。

「このニンフィア、野生じゃなかったのか…。」

ミアはちょっとしょんぼりしていた。もしかして、捕まえようとしてたの…?

「うん。私のニンフィア、フィアって言うの。私は情報処理学科の1年、天王寺璃奈。えっと…もしかして、ミア・テイラーさん?」

璃奈さんはミアのことを知っているようだった。いや、この学校内ではすでにミアとランジュさんのことはかなりウワサになっていたから、知らない人の方が少なそうだった。

「そうだけど…。って、もしかして、スクールアイドル同好会にいる天王寺璃奈って、キミのこと?」

「うん。私のこと、知ってたの?もしかして…同好会の動画とか、見てくれてた…?」

「ま、まぁ…。ってか、ランジュに散々キミたちの話されてたから、嫌でも覚えてるよ。」

そういえばそうだった。ランジュさんと最初に出会った時もそうだったけど、あの後も何度かミアに会いにきて、虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会の話をこれでもかというくらい何度も何度も話をしていた。その度にミアは「その話は何度も聞いた」と言ってたけど、それでもランジュさんは止めなかったな…。

 

「この子、ミアさんのイーブイ?可愛い。」

「あ、ありがと。cocoaって言うんだ。小さい時から一緒にいる。なかなか進化しないけど。」

フィアとわたしを見比べて、ミアはつぶやいた。失礼な!そんなこと言われても、まだわたしは進化したいとは思っていないし、そんな機会も無かった。

「あの…ミアちゃん、って呼んでもいい?」

唐突な璃奈さんの申し出に、ミアはおどろいていた。フィアも、ミアがどんな返答をするのかとミアの顔をのぞきこんでいる。そこまでされたらなかなか拒否できないだろうな。ミアはちょっと恥ずかしそうに言った。

「べ、別にいいけど…。じゃあ、ボクも璃奈って呼んでいいかな?」

「いいよ。フィアも、ミアちゃんとcocoaちゃんと仲良くしようね。」

「ふぃ〜〜♪」

フィアはにこにこしていた。今までも、フィアはよくわたしたちのところにきて一緒に遊んでたから、今さら、って感じだけど。

cocoaちゃんも、よろしくね。」

そう言って璃奈さんはわたしの頭をなでた。とっても気持ちよかった。

「ぶぃ〜♪」

「ボクがなでてる時よりも嬉しがってない?」

そんなことないもん!!ミアがヤキモチやいてるだけでしょ!!!

 

それからというもの、よく璃奈さんはミアのところに来た。璃奈さんだけでなく、同じ学科でさらに同じ同好会にいるという、宮下愛さんという人も一緒に来ることが多かった。

金髪で背も高く、毎日元気よく動き回ってる愛さんは、たのもしいお姉さん、って感じだった。時々、手持ちポケモンのエースバーンと一緒にすごい勢いでランニングしてた。あんなに走れるなんてすごい。…ミアにはムリだろうなあ。

 

それから、同じ音楽科である高咲侑さんという子とも、ミアは仲良く…いや仲良しなのかよくわからないけれど、とにかく知り合いにはなっていた。侑さんは同好会に入っているみたいだけど、スクールアイドルはやっていないという、よくわからない子だった。音楽科にも途中から入ったばかりでわからないことが多いらしくて、ミアに色々と聞きにきていた。ミアも、仕方ない、といった風だったけれど、でも内心頼られるのがうれしいみたいで、色んなことを教えてあげていた。

 

しばらく、一人でいるところばかり見ていたわたしは、ランジュさんや学校の他の人とやり取りしているミアを見るとうれしくなった。ミアは自分では気が付いていないようだったけど、ちょっと楽しそうに見えた。あんまりミアが誰かと一緒にいる時間が長いとちょっとイヤになっちゃうけど、そこまで長い時間ずっと他の人といることはほぼ無かった。

璃奈さんや侑さんとかと関わるうちに、虹ヶ咲学園の他の同好会の人とやり取りすることもいつの間にか増えていた。ミアの方から話しかけることはほとんど無かったけれど、誰かがミアのことを見かけると話しかけてきたし、気がつくといつの間にかミアの方から同好会の子がいるところへ向かっていっていることもあった。少しずつ、ミアが変わっていっているような、そんな気がしてうれしかった。

 

それでも、学校が終わればすぐ今のミアの家である虹ヶ咲学園の学生寮の部屋に戻って、ひたすら作曲していた。カントーに来る前と同じように、息抜きにゲームすることもあったし、深夜には野球観戦もしていたけれど。

数日に1曲くらいのペースでミアが新曲を作って、そしてランジュさんがそれをライブで披露する、そんな生活がしばらく続いた。

 

 

「次のスクールアイドルフェスティバル、この私の最高のライブにするから、とっておきの曲を作って頂戴、わかったわね、ミア!!」

ランジュさんはある日、ミアを呼び出してこう言った。そういえば、ランジュさんがスクールアイドルをやりたいと思ったきっかけが「スクールアイドルフェスティバル」っていうイベントだったんだっけ。ランジュさんは今まで以上に気合が入っているみたいだった。

「これであの子たちよりも…同好会の子たちよりも、ランジュが完璧だってことを、わかってもらうのよ!!そのためには…わかるわよね?」

ランジュさんは自信満々だった。

「わかってるって。そのためにボクを呼んだんだろ?いつだって最高の曲を作ってきたつもりだけど、それをさらに越えてみせるよ。」

「そうこなくっちゃ!さすがミアだわ!!」

ランジュさんはとてもうれしそうだった。本当にミアのことが大好きみたいで、よく食事にも連れて行ってもらっていたけど、ミアはいつもあまり気乗りしていないようだった。…まぁ突然呼び出されるもんね。あと、ミアの食べたいものとかたいてい無視されちゃうし。

「じゃ、ボクはこれで。今から作曲作業に入るから。出来上がったらまた確認して。」

「わかったわ!期待してるわよ!!」

ミアはやれやれ、といった感じで寮へ戻っていった。

それにしても、ランジュさんの言う、「完璧」ってなんだろう?とわたしはふと考えてしまった。ランジュさんの歌と踊りはたしかにいつもすごかった。ミアの作ったどんな曲でもうまく歌いあげていたし、踊りもすごかった。でも、ミアの見ている他のスクールアイドルの子たちや、虹ヶ咲学園の同好会の子たちのライブとは、なんだか違うような気がした。…イーブイのわたしには、それがなんなのかはっきりわからなかったけれど。

 

 

第2回スクールアイドルフェスティバルが始まった。いろんな学校で、たくさんの日を使ってやるみたいだった。ミアは、最初はあまり見て回るつもりはなかったみたいだけど、どうやら璃奈さんにさそわれたらしい。いつの間にか、他の学校に行って、いろいろ見て回っていた。璃奈さんや、同じ同好会の人…しずくさんに、かすみさんだっけ?に連れられてあちこち行っていた。もちろんフィアも一緒にいたから、わたしはフィアと一緒に歩き回っていた。時々自分たちのトレーナー…ミアのことや璃奈のことを話しながら。

 

『僕の璃奈はねえ…すごいんだよ。自慢のトレーナーだしスクールアイドルだよ。』

『そういえば、璃奈さんもスクールアイドルなんだっけ。今日もライブをするの?』

『明日かな?ソロで一人でライブしてもすごいんだけど、今回は4人で一緒にライブするみたい。いろんなことに挑戦する、とっても素敵なトレーナーだよ、璃奈は。』

『へぇ…そうなんだ。』

『そういえば、キミのトレーナーの、ミアちゃんだっけ?あの子は歌ったりしないの?』

その質問にドキッとする。ミアは、歌えないことはない。むしろ、歌はとても上手いし、今歌ったって絶対同好会の人たちやランジュさんに負けないくらいすごいと思ってる。

 

でも、もうミアが歌うことは、おそらく、ない。

 

『…そうね。歌わないよ。でも、ミアの作る曲は、すごいんだから!』

フィアはわたしが答えるのにちょっと間があったことを見逃してはいなかった。でも、それについては詳しく聞かなかった。

『そっか。確かに、ランジュって人のパフォーマンスや歌もすごいよね。…でも、僕は同好会のみんなの方が素敵だな、って思うけどな。』

『なによ、それ!ミアの作ってる曲より、同好会の曲の方がすごい、って言うの?』

『別にそういうわけじゃないんだけどさ。ってか、僕たち、自分のトレーナーのことが大好きなんだよね。ポケモンからしょうがないか!』

そんなことを言ってフィアは笑った。なんだか納得いかない。でも、わたしがミアのことが大好きなのと同じように、フィアは璃奈さんのことが大好きで、それは同じことだというのはわかっていた。

「おーい、cocoa、どこ行くんだよ!そろそろランジュのところに行くぞ!!」

いつの間にかミアとはぐれていたようだった。あぶないあぶない…!!

『じゃあ、またね!!』

わたしはそう言って、ミアのところへ走っていった。

 

 

なぜか今、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室にわたしたちはいる。そして、ミアは同好会の人たちが歌う曲を作る手伝いをしている。どうしてこんなことになったのか…。

同じ音楽科にいる高咲侑さんが、ずっと同好会の全員で歌う曲をどうするかで悩んでいるのは知っていた。同好会の他の人たちにも心配されていた。このスクールアイドルフェスティバルの最後に歌う予定にしているのに、まだできてない…それは大丈夫なんだろうか、と思ったけれど、なかなか納得がいくようにできてないみたいだった。ミアだって時々悩んでしばらく作業が進まないときがあるんだもの、まだ作曲をやり始めたばかりという侑さんが悩むのは仕方のないことだと思う。

それを見かねてなのか、ミアが侑さんにアドバイスをしにいっていた。わたしも一緒についていった。侑さんのところには、一緒に侑さんのポケモンであるピカチュウもいた。ピカチュウもずっと心配しているみたいだった。

 

ミアと話しているうちに、侑さんはぱっと思いついたのか、いきなりミアの手を引っ張って同好会の部室へつれていった。そして、「手伝ってくれるよね?」とミアに強気な顔をして言った。ミアはちょっと気おされていたようだった。こんな調子でミアに手伝いを頼む人を、初めて見た気がする。ランジュさんといい、侑さんといい、スクールアイドルに関わるような人ってなんだかすごい…。

そして、ミアは侑さんの作曲作業を手伝うことになった。すでに歌詞はあったのでそれに合わせて。時間も残り少ない中、すごい集中力で2人はどんどん作業を進めていっていた。ミアもすごいけど、侑さんもすごいと思った。わたしは侑さんのピカチュウと一緒に、作業にじゃまにならない程度に応援していた。侑さんは時々「ほんとにかわいいねこのイーブイ!!」と言ってなでてくれた。ミアは「そりゃあボクのポケモンだしね。」なんて得意気に言っていた。最近あんまりかまってくれてないくせに…!!

 

 

無事、第2回スクールアイドルフェスティバルは終わった。ランジュさんもミアが作った曲をいくつか披露して、ライブはすごい盛りあがっていた。侑さんとミアが作った、同好会の人たちの曲も、すごかった。フェスティバルの最後にふさわしい、素敵な曲だった。同好会の人たちは、ミアにとても感謝していた。ミアも、「これくらいお安い御用だよ。」と言いつつも、ちょっと照れくさそうにしていた。

いつの間にか、同好会の打ち上げにミアも参加していた。「ボクがこんなところにいていいの?」なんてミアは言ったけど、同好会の人たちからは是非いて欲しい!なんて言われて参加することになった。わたしは同好会の人たちみんなからなでられたり、お菓子をもらったりした。ミアは「あんまり調子に乗るなよ?」なんて言っていたけど、こんなにいろんな人たちに囲まれたことがあまりなかったから、調子に乗るというよりわたしはちょっと戸惑っていた。侑さんは「ミアちゃんのイーブイ、ほんっっっとうにかわいいよね!!」なんて言ってさらになでなでしてきた。ちょっとくすぐったいってば!

そういえば、ランジュさんはどうしたんだろう?見かけてないや…。ミアも、ちょっと気にしているみたいだった。

 

次の日、ミアはスマホを見るなり、部屋を飛び出していった。向かったのはランジュさんが住んでいる部屋。寮ではなく、別のところに住んでいた。

「これはどういうことだよ!!」

ミアはランジュさんに向かって叫んだ。でも、ランジュさんはすました顔をしていた。

「どうって…?私はもうスクールアイドルはやめる。やりきったのよ。もう、決めたの。近いうちに帰国するわ。」

「いきなりなんで…!?」

 

ランジュさんは、少し間を置いて言った。

「あの子たちのライブ、見たでしょ。私にはあんなの無理だって。思い知らされちゃったのよ。」

「……。」

ミアは黙り込んだ。「あの子たち」っていうのは、たぶん同好会の人たちだろう。「あんなの無理」って、一体どういうことなんだろう。ずっと思っていた、ランジュさんは、なぜ同好会に入らないのか。ソロ活動だとしても、誰かと一緒にいるのは、なんでだめなんだろう。

「とにかく、もう私はやめるって決めたから。」

「そんなの、ボクが認めない!!」

ミアはいつにも増して、感情が昂っているようだった。ここまでミアが強い口調で怒っているのを、今まで見たことがあっただろうか…?わたしはびっくりした。

「じゃあ、次はもっと最高の曲を作ってやるよ。絶対に、キミに納得してもらえるような、最高のものを作ってやる。」

ミアはランジュさんを目を見つめて言った。ここまで本気になっているミアは、見たことがなかった。

「そう。でも、どんなものを持ってきても、私の答えは変わらないわ。」

「そんなキミの考えを、ボクの曲で覆してやる。」

そう言って、ミアは出ていった。わたしもあわててミアの後を追った。こんなにミアが気持ちをさらけ出しているところは初めて見たかもしれない。

 

いや、あの日以来だ。

 

学校に戻ると、同好会の人たちがミアのところにやってきた。同好会の人たちもみんなあわてた表情でいる。ランジュさんがスクールアイドルをやめることを、どうやら知ったみたいだった。

「ミアちゃん、なんか聞いてる…?ランジュちゃんのこと…。」

侑さんが言った。同好会の人たちも、ランジュさんにやめてほしくない、と思っているみたいだった。そこまでランジュさんのことを考えているのはおどろいたけれど、いきなりこんなこと言われたら誰だっておどろくに決まってる。

「いきなりどうして…。」

3年生のエマさんが言った。ランジュさんのことを、特に気にかけている人だった。横には、璃奈さんもいた。フィアもいる。フィアも、どうしたらいいかわからない、という表情をしている。

「ボクもランジュのところに行ったさ。でも、やめるの一点張り。ボクはランジュにここまで連れてこられたんだ。勝手にやめるだなんて、そんなの認められない。」

そうだ、ミアはランジュさんに言われてイッシュからわざわざ来たんだ。それなのに勝手にミアのことを置いていくだなんて、そんなのおかしい。

『ねえ、一体なにが起こってるの…?ランジュちゃんに何が…』

フィアが話しかけてきた。

『わたしにもわからない。いきなりミアにやめるからもう契約は終わりって…。わたしたち、勝手に連れてこられたのに…。ミアは、やめさせないつもりだけど…。』

 

「とにかく、ランジュは帰らせない。何としてでも続けさせてやる。ランジュには、まだまだボクの曲を歌ってもらわなきゃいけないんだ…!!」

ミアはすごい形相でその場を去っていった。わたしはまたあわててミアの後を追った。

 

少し振り返ると、璃奈さんとフィアが、わたしたちのことをじっと見つめていた。

 

 

ミアは、寮の部屋に引きこもった。その目はただ真剣というだけではなくて、何かに追い詰められているような、そんな感じがした。わたしは不安になった。こんな感覚、前にもあった。

 

そう、ミアが歌わなくなった、あの日。

 

しばらく忘れていた。歌えないと言って、地の底に落ちたかのような表情をしていたミアが、その後猛勉強して作曲家になった、それまでの日々。一体ミアはどうなってしまうんだろうと、わたしや、他のポケモンたち、そして家族もその時は心配していた。恐ろしい何かに追われているような、そんな顔で過ごしていた毎日を、いつの間にか忘れてしまっていた。

 

ずっとしまっていた、わたしの本当の気持ち。イッシュに置いていくと言われてもゆずらなかった、わたしの気持ち。伝えたい、けれど伝えられない……。

 

わたしは、必死になって作曲をしているミアを、見守ることしかできなかった。

 

 

「よし、できた…!!」

そうミアは言って、いそいで制服に着替えた。数日、学校にも行かず、寝ないで、食事もしないで作曲していた。わたしや、チルタリスのcandyやアシレーヌのlettuceも心配してつっついたり声をかけたりしたけれど、全く気がついてくれなかった。ゾロアークのpicklesも、さすがにミアをなんとかしようとしたけれど、あまりにもミアが集中していたので、邪魔をすることはできないようだった。

 

ミアが部屋を飛び出すと、そこには璃奈さんとエマさんがいた。ミアも、わたしもおどろいた。

「ミアちゃん…!?」

璃奈さんとエマさんもびっくりしている。

「できたんだ、最高の曲が。今からランジュのところに行ってくる。」

そう言って、自信満々の顔して、でも髪も整えず、よれよれの制服のまま、ミアは走っていった。わたしも追いかけていった。璃奈さんとエマさん、そして途中で侑さんも合流した。

 

 

ランジュさんを呼び出して、ミアは作ってきた曲を渡した。ランジュさんが面倒くさそうに音楽プレイヤーを受け取って、曲を聞く。ランジュさんが曲を聞いている間、一体どうなるのか、緊張でじっとしていられなくなりそうだった。

 

「どう?今のキミに合った最高の曲だと思うんだけど…。」

ミアは、これでランジュさんが気持ちを変えてくれると信じて疑っていないという顔をしていた。それくらい、今のミアの技術すべてを詰め込んでいるのだと、作曲作業を見ていたわたしにはわかる。

 

「そうね、素晴らしい曲ね。」

「だろ?じゃあ…」

 

「でも、これは私の曲じゃないわ。」

 

わたしは、いやミアも、その場に来て隠れてこれを聞いていた侑さんや璃奈さんたちも、耳を疑った。そんなことはない、ミアはランジュさんのことを考えて、本当に真剣に作っていたんだ。そんなことを言うなんて…!!

 

「何を持ってきてもらっても、私の答えは変わらない。言ったでしょ。もう私のスクールアイドル活動はおしまい。じゃあね。」

ランジュさんはそういって、去っていった。

 

ミアの方を見ると、今のこの状況を受け入れられないといった様子だった。わたしは、どうしたらいいか、全くわからなかった。あんなに一生懸命に作った曲を否定されてしまっては、どうミアに接すればいいか、見当もつかなかった。

「……っ!!」

ミアは手をにぎりしめて、走っていった。わたしは、チラッと近くにいた侑さんや璃奈さんの方を見て、ミアを追いかけていった。

「ランジュちゃん…!!ミアちゃん…!!」

侑さんが叫ぶのが聞こえたが、振り返る余裕なんてなかった。

 

 

普段一緒にのんびりしていることが多い、学校の裏庭に来た。ミアは気持ちがおさえきれないようで、壁を思いっきり殴った。

「どうしてだよ…!!どうして…。」

わたしは、ゆっくりとミアのもとへすり寄った。わたしも、どうしたらいいかわからない。こういう時、手持ちのポケモンであるわたしたちは、一体どうするのが正解なんだろうか。

「ぶ…ぶい……」

わたしは、おそるおそるミアの顔をのぞきこんだ。そこにはあの日と同じ、ミアの顔があった。

 

「うっ…。なん…だよ……。」

 

わたしは、ミアのことをはげましたかった。でも、あの日と同じ、どうしたらいいのか、全く頭に思い浮かばなかった。あれからもずっとミアのそばにいたというのに、あの日と何も変わっていないじゃないか…!!

いや、ポケモンであるわたしには、イーブイであるわたしには、どうすることもできないんだろうか…。このまま、見守ることしかできないんだろうか……。

 

「ぶぶい……。」

 

わたしは、いったんそらした顔を戻して、またミアの顔を見つめた。ミアと一瞬目が合ったが、すぐにミアは目をそらし、そして、わたしに言った。

 

「笑いたければ笑えばいいじゃないか!!歌も歌えなくなって、自信満々に作った曲は否定されて…。あはは、ボクにはもう何も残っていないや……。」

 

そんな、そんなこと、言わないでよ…!!どうしてそうなるの……!!!

そんなことはない、ミアは、ミアは他の誰よりも、わたしにとって、とっても素敵な人なのに。何もないだなんて、そんなこと絶対にないのに……!!!

 

わたしは、ミアのその言葉を否定するように、思いっきりミアに体当たりした。わたしが気持ちを伝えられる手段は、あまりなかったから。

 

「ぶい!!ぶぶい!!!ぶーぶい!!!」

 

思いっきり叫んでやった。なんでそんなことを言うのか、と。もっとミアには自信をもって欲しい、と。

そして、もっと自由になってほしい、と。

 

 

でも、それはうまく伝わらなかった。

 

「…どういうことだよ。」

ミアは怒っていた。

 

「いつもそうだ!!どうしてボクの言うことを聞いてくれないんだよ!!進化をさせようとしたときも、ここに来る前も…いつもいつも大事な時だけボクの言うことに反抗して、一体どういうことだよ!!!それでもボクの手持ちポケモンなのか!?ボクのことがそんなに嫌なら、もうどこにでもいけばいいじゃないか!!!」

 

 

わたしは、最初何を言われているのかわからなかった。でも、もうここにはいられなかった。

 

わたしは、ミアを置いて駆け出した。

 

 

「あれ…cocoa…ちゃん?」

いきなり声をかけられてびっくりした。そこには、璃奈さんとフィアがいた。どうやら、ミアのことを探しにきたらしい。ちょっと息があがっていた。

『どうしたのさ、そんな顔して…それに、ミアちゃんは……?』

言われて、わたしはわれに返った。そして、璃奈さんに抱きついた。

 

cocoaちゃん……。ねえ、何があったの?ミアちゃんは……。」

「ぶ…ぶい……。」

わたしは、もうなにをどうしたらいいのか、なにも考えられなかった。

『ねえ、教えて、キミたちのこと。僕たち、ずっと気になっていたんだ。僕なら、少しは気持ちを璃奈に伝えることができるから。』

少しは気持ちを伝えることができる…?その言葉の意味はよくわからなかったけれど、フィアと璃奈さんが、わたしたちのことを本当に心配してくれていることはわかった。

 

『僕たちもね、実は前に色々あったんだよ。璃奈も、昔からこんな行動できる人じゃなかったんだ。でもね、愛さんや、同好会の人たちがいたからこそ、今の璃奈があるんだ。もしかすると、僕らはキミたちの…cocoaとミアちゃんの力になれるかもしれない。』

そして、璃奈さんも、こう言った。

「ねえcocoaちゃん、ミアちゃんがどこにいるのか、教えて。私、ミアちゃんのこと、もっと知りたいんだ。もちろんcocoaちゃんのことも。

私、ミアちゃんの作った曲、大好きなの。だから、もっとミアちゃんとお話したい。仲良くなりたいの。」

 

そんなこと、面と向かって言われたのは、初めてだった。確かにランジュさんや、その他ミアに作曲を頼んできた人たちは、ミアの作った曲をほめてた。でも、ミア自身に興味を持ってくれた人なんて、今までいただろうか…?

 

璃奈さんなら、もしかすると…。

 

 

とにかく、もう一度ミアのところに行かなくては。わたしは璃奈さんの顔を見て「ぶい!」と返事をした後、ミアがさっきいたところへ走っていった。璃奈さんがちゃんとついてきているか確認しながら。

 

でも、ミアはもうそこにはいなかった。一瞬あきらめかけたけど、そこにはうっすらとミアのにおいが残っていた。そうだ、わたしはイーブイだ。ガーディやイワンコほどじゃないけれど、ニンゲンよりはよっぽど鼻はきくほうだ。それに、ずっと一緒にいるご主人さまのにおいなんて、すぐわかるに決まっている。

わたしはその場に残っているミアのにおいをたどって進んでいった。

 

 

「ミアちゃん!!」

たどり着いた先は、学校の講堂と言われている場所だった。たまたま鍵が開いていたみたいで、講堂の端でミアはうずくまっていた。

 

「なんだよ、璃奈。ボクのこと、冷やかしに来たの…?」

だから、なんでそんなこと言うの…?ミアは、相変わらず自暴自棄になっているようだった。

 

「違うよ。ミアちゃんのことが心配で来たの。」

「ほっといてくれよ。こんな何の価値もないボクのことなんて…。」

「どうして…そんなこと、言うの?価値がないなんて…。」

 

「歌えない…曲も作れないミア・テイラーなんて、何の価値もないんだよ!!!」

 

ミアは叫んだ。

やっと、外に出してくれた。あの日から、ずっと心に閉まっていた気持ちを。

 

「ねえ、教えて。ミアちゃんのこと。私、ミアちゃんのこともっと知りたいの。もっと仲良くなりたいの。お友達に、なりたい。」

璃奈さんが、そう言った。わたしも、ミアの方へ、やさしく、すり寄った。

「ぶい…。」

ミアは、少し目をそらしてから、ぽつぽつと話し始めた。家のこと、小さいころのこと、歌っていたことがきっかけでわたしと出会ったこと、そして、あの日のことを。

 

「テイラー家の人間として、歌を歌えないなんてこと、そんなのあってはいけないはずなんだ。でも、ボクにはできなかった。だから、なんとか音楽に関われる道を探したんだ。それが曲作りだった。でも、それも結局こんなことになっちゃった。今の自分にできる最高のものを作っても、認められないなんて…。」

ミアの話を聞きながら、わたしは今までのミアとの日々を思い返していた。そして、やはりわたしの心の奥にずっと残していた想いは、今でも変わらないと思った。

 

 

「ねえ、ミアちゃん。私、ミアちゃんの歌、聴きたい。」

 

わたしは、びっくりした。だって、たった今、再びわたしの中からわきあがってきた気持ちと全く同じだったから。

 

「無理だよ、そんなの。ボクには…」

「ミア・テイラーじゃなくて、ミアちゃんの歌が聴きたいな。」

 

そう、そうだ。わたしもずっと思っていた。思っていたけどうまく表せなかった気持ち。そんなテイラー家がどうとか、そんなことどうでもいい。わたしはミアの歌がききたい、それだけなんだ…!!

 

「私、ミアちゃんの作った曲、とっても好きなの。すごくいろんな音が重なってて、注意してよく聞かないとわからない音もたくさん入ってる。きっと、それは、ミアちゃんの気持ちがこもっているんだと思う。今ここで話してくれた、ミアちゃんの想いが、ぎゅっと詰まってる。だからね、きっと、ミアちゃんの歌う歌も、すごく素敵だと思うの。それに…。」

璃奈さんは、上着のポケットから何かを取り出した。

「これはね、フィアの気持ちや、フィアが周りの人やポケモンから受け取った想いを言葉で表してくれる機械なの。私が作ったんだけど、まだそこまで感度は高くないから、本当に強く願ったり想ったりした時しか感じ取れない。でも、逆にそれくらい強い気持ちがあるってことがわかるから、このままにしてる。」

これで、フィアの言っていた、『少しは気持ちを伝えることができる』という言葉の意味がわかった。フィアの方を見ると、そういうことだ、とうなずいていた。

「それでね、フィアが、cocoaちゃんの気持ちを感じ取っていたみたいなの。それはね…。」

璃奈さんが、機械の画面をミアに見せた。

 

 

「ミアの歌を聴きたい…。」

 

「ぶい!!!」

 

わたしはつい、大きな声を出してしまった。だって、これでやっと伝わったから。わたしが、ずっと、あの日から想っていたことを。

ミアはおどろいて、わたしの方を見た。大声におどろいたんだと思う。そして、目に涙を浮かべて、言った。

 

「ごめん…ごめんね……!!」

 

ミアにいきなり抱きしめられて、今度はわたしがおどろいた。そういえば、こうやってミアに抱きしめられるのは、久しぶりな気がする。ミアの身体は、あたたかかった。

 

「本当は、ボクも、ずっと歌いたかった。気がついてたんだ、cocoaがこう思っているんだってことは。だから、カントーへ来る前、イッシュにキミを置いていこうとしたんだ。歌いたいっていう自分の気持ちと、決別するために。でも、わかっていたんだよね、cocoaは、ボクのそんな気持ちを。置いていこうとして、本当にごめん。」

 

そんな、謝らなくたって、いいのに。

 

「それに、さっきはトレーナーとして、本当にひどいことを言った。ごめん…本当にごめん…!!」

 

ミアは、泣いていた。わたしも、いつの間にか、涙が出ていた。

 

しばらくミアと一緒に泣いていた。璃奈さんとフィアは、それを何も言わず見守ってくれていた。

そして、やっと落ち着いてきたころ、ミアと璃奈さん両方のスマホから通知が来た。

 

 

 

ミアは作曲していた。今度は、ミア自身が歌う歌を。そして、同好会の人たちもそれを手伝いに来ていた。ミアは手伝ってくれるのは悪い、なんて言っていたけど、この前のスクールアイドルフェスティバルの時のお礼だ、と言って、同好会の人たちはみんな聞かなかった。実際、ミアは集中すると他のことが目に入らなくなるので、同好会の人が定期的に部屋に来て食事を出してくれたり、片付けをしたりしてくれるのは本当にありがたかった。

どうしてこんなことになっているのか、それは、ランジュさんが帰国する日をもう決めてしまったからだった。同好会の人も、ミアも、ランジュさんには帰ってほしくない、そう思っていた。勝手に何も言わずに出ていってしまうなんて、みんな納得いかないもの。わたしも、どうしてそんなことをするのか、わからなかった。それに、ミアのことを置いていくのはどうやら本当みたいだったし、それは許せなかった。

 

ランジュさんを引き留めるため、ランジュさんに向けて、そしてミア自身自分の気持ちと向き合うため、同好会の人たちの力も借りながら、ランジュさんの帰国に間に合わせるように一生懸命作曲をしていた。

 

 

「ねえ、ミアちゃん、間に合いそう!?」

「今、最終調整してる。みんなは先に行ってランジュを引き留めておいて!!」

侑さんから連絡が来た。ミアはまだ作業をしている。

 

ランジュさんの帰国の日になってしまった。あともうすぐ…どうにか間に合ってほしい…。日が暮れていく中、ミアは作った曲を確認していた。

 

「…よし、これで、いける!!」

ミアは立ち上がった。その顔は、前とはちがう、吹っ切れた顔だった。

「みんな、行くよ。」

わたしだけでなく、ミアの作業の進捗を見守っていたチルタリスのcandy、アシレーヌのlettuce、ゾロアークのpickles、ストリンダーのpotatoとtomatoも立ち上がった。lettuce、pickles、potato、tomatoはボールに入った。ランジュさんのいる空港へいそいで向かうため、candyに乗って直接空港へ飛んでいく。わたしはボールに入らず、ミアにつかまった。

「Candy、行って…!!」

きれいな声を出して、candyは飛び上がった。

 

 

空港の展望デッキのところにみんなはいた。よく見ると、ランジュさんと同好会のみんなはポケモンバトルをしていた。同好会のみんなのポケモンは押され気味だったけれど、さすがに数が多いのでランジュさんのポケモンも疲れているようだった。

「もう、なんなのよ!私はもう帰るんだってば!!」

「ランジュ!!!」

ミアはデッキに降りた。candyをボールに戻した。

 

「ミア…。どんな曲を持ってこられても、私はもうスクールアイドルはしないんだから!!」

「確かにボクは曲を作ってきたさ。でも、これはキミの歌う曲じゃない。」

ランジュさんはおどろいた顔をした。

 

「ランジュ…キミは確かにすごいパフォーマーだよ。歌も、踊りも、どれをとってもすごい。それなのに、こんなところで夢をあきらめるなんて、自分が意気地なしとは思わないのか…?」

ミアは、ランジュさんのことをあおっていた。少し前の、本当の自分の気持ちを押し殺していた時のミアとは違う、真っ直ぐな目をしていた。

「ボクとキミは似ているよ。心の中で本当に願っている気持ちから目をそらして、向き合わずにここまで来た。でも、もうボクはそんなことはやめる。ずっと思っていたこと…やりたいと思っていたこと、周りのことなんか気にせずやってやる。」

ランジュさんは何かに気がついたようだった。はっと目を見開いた。

 

 

「ボクは…ボクの夢を……つかむよ…!!」

 

 

そして、一呼吸置いて、ミアは、歌いだした。ランジュさんが、同好会のみんなが、見守る中で。

 

"I used to look above at stars, and chase..."

 

久しぶりに聴くミアの歌声。小さかったころとはまたちがう、少し重みのある、でもすきとおったきれいな声。これまであった色々な物事が、さらにミアの歌声を素敵なものにしていた。

わたしも一緒に踊りだした。ミアの気持ちを受け取りながら、ミアの歌声を聴きながら……。

 

もうすでに日は暮れて、空には星が瞬いていた。

そして、踊っている途中で、なんだか光に包まれたような、そんな気がした。

 

 

 

いや、気がしたんじゃない、それは本当だった…みたいだった。

 

 

 

「まさかcocoaちゃんが進化するなんて、びっくりしたよ~!!」

同好会の部室。侑さんが話している。あの後、ミアとランジュさんは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に入部することになった。ランジュさんは、今まであまりうまく周りと付き合うことができず、みんなと一緒にやるのが不安だったから、同好会には入っていないということだった。まさかそんなことで…と思ったけど、でも確かにランジュさんはなかなか無茶なことを言うことがあるから、わからなくはないな、と思った。

とりあえず、そういうことだから今この部室にいるのはなにもおかしくはないんだけど…。

「トレーナーであるボクが進化する瞬間を見ていないって、どういうことだよほんと…。」

 

そう、私はあの時、進化していた。ミアは歌っているのに夢中で気が付いていなかった。しかも、私も…自分でも気がついていなかった。いや、なんだかちょっと変だな?とは思ったんだ。身体の感覚が途中からちょっといつもと違うとか、なんだか視線が変わったなとか、思ってはいたけど…。でもそれがまさか進化していただなんて、全く思いもよらなかった。

 

ブラッキー…かっこいい!」

「ふぃ~♪」

璃奈さんとフィアが言う。そう、私はもうイーブイではなく、ブラッキーだった。フィアと同じくらいの高さになれたのはうれしいような、ちょっとさみしいような。ミアとの高さの差も縮まっていた。

 

「まぁでも…ずっと進化していなかったから、良かったけどね。」

「でもすごいよね!ブラッキーって、トレーナーとしっかり絆を結んでいないと進化できない、って言うじゃん!!それだけcocoaちゃんと仲がいいっていうの、愛さんうらやましい~~!!」

愛さんとエースバーンもなかなか仲良しだとは思うんだけど…まぁいっか。ミアになでられながら、そんなことを思う。もうミアのひざに乗るのは難しいけど、力も少し強くなったし、これはこれで悪くない、と思う。

 

「さて、cocoa、ちょっと練習しに行こうか。」

「ぶらっ!!」

 

 

あの後、ミアと璃奈さんは、とっても仲良しになった。というか、ミアが璃奈さんのことをすっかり気に入っちゃったみたいだった。…なんだか、ミアのことを取られたような気持ちがするけど、もう進化したしあんまりわがままは言わないようにしようと思う。それに、フィアと一緒にいる時間も増えたから、それはそれで良いのかな?フィアと私もとっても仲良くなったし。

 

今日もミアと璃奈さんは一緒に遊んでいた。2人ともゲームするのが好きだから、たいていは一緒にゲームしている。フィアと私は勝手に部屋のなかをうろうろしたり、ミアと璃奈さんの話や、時々同好会の他の人たちの話もしたりする。こんなに他のポケモンと仲良くなったのも、初めてかもしれない。

 

 

そんなある日。

「え…cocoa……これは…。」

「ぶらっき!!」

 

 

 

「もしかして…イーブイのタマゴ!?!?」

 

 

 

おしまい。

 

あ、最後のタマゴは国際孵化になるので色違いの確率がアップしております。
色違いイーブイが狙えますね!!